トレーニング科学・発育発達老化

 尾崎研究室
 
 東海学園大学スポーツ健康科学部

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  コラム

vol.15 日本フットボール学会20th


2023年3月11-12日に大東文化大学東松山キャンパスで日本フットボール学会20thが開催されました。

一昨年度から、男子サッカー部でフィジカルコーチとして活動をしていますので、その勉強のために、また、演題発表のために参加してきました。

私の演題は下記の通りです。

『大学男子サッカー選手の無酸素性持久力を評価するフィールドテストの検証』

有酸素性持久力を評価するフィールドテストとしては、20mシャトルランや12分間走などが広く普及していますが、無酸素性持久力を評価するフィールドテストといわれるとパっと思いつかない方も多いのではないかと思います。

私も現場で無酸素性持久力をどのテストで評価しようかなと悩んでいたことが、本研究のきっかけです。

実際に、論文などを調べても、広く普及していると言えそうなものがあまり無いのが現状でした。

ないなら自分で研究をしてみようということです。これが、研究者であり指導者であることの楽しさですね。

そこで今回は、MooreとMurphyが2003年の論文で紹介している300mシャトルランテストに着目をして研究をしました。

300mシャトルランは、20mシャトルランと同様に、20mの往復走です。有酸素性持久力テストと同じコートで測定をできるのはメリットですね。

20mを15本、つまり、7.5往復、最大努力でスプリントするテストです。

サッカーでは、ポジションにもよりますが、おおよそ最大酸素摂取量を超えるような速度での移動距離の平均値は20m以下であることが、Adeら(2016)の研究で示されてされていますので、サッカー選手の無酸素性持久力を評価するのにも適した方法と言えるのではないかと考えました。

300mシャトルランのタイムは、先行研究で、最大酸素借やウィンゲートテストの平均パワーと相関があることが示されていますが、今回の私たちの研究でもウィンゲートテストの平均パワーと相関が認められました。

さらに、今回の研究では、300mシャトルランタイムは20m走タイムとは有意な相関がなかったため、単純なスプリント能力、もしくは、無酸素性パワーではなく、無酸素性持久力を反映したテストといえそうです。

また、サッカーの競技レベル別にタイムを比較してみたところ、競技レベルが高い群で、有意に優れたタイムを有していることが分かりました。

現在、論文を執筆中ですので、詳しい内容については、論文が公開されましたら、改めて紹介したいと思います。

その他、印象に残ったご講演やご発表について、忘備録として、記載しておきたいと思います。

<ランチョンセミナーT>
「ワットバイクを活用したフットボール選手のスプリント能力向上への取組」筑波大学・谷川先生

サッカー日本代表選手へのスプリント指導の事例などをもとに、ワットバイクの活用も含めたスプリントの指導方法についてご紹介頂きました。

<シンポジウムT>
「フットボールサイエンスの潮流と未来 〜日本フットボール学会設立20周年の節目に〜」

フットボールの「トレーニング」(早稲田大学・広瀬先生)、「バイオメカニクス」(東京学芸大学・新海先生)、「ゲーム分析」(東海大学・八百先生)、「コーチング」(筑波大学・中山先生)についてのシンポジウムでした。

フットボール学会では、2023, Vol.18, No.1において、20周年記念誌として、「フットボールの科学」を発刊しています。

ご講演は、この内容に基づくものでした。

この記念誌は、その他、フットボールの「人文・社会学」、「心理学」、「医学」、「多様性」を含めた8分野の記事を、計315ページに渡って公開しており、私も学会の前後で一通り目を通しましたが、大変勉強になりました。

アクセスできる方は、是非、ご一読をおススメします。

演題発表では、同じセッションで口頭発表をされた2名の先生方の発表が印象に残っています。

「環境・相手・戦況・戦術要因で調整したフットボール試合中の走形態の時間推移:Jリーグ公式戦フル出場フィールド選手1016件のGNSS解析に基づく疲労指標の提案」(岡山県立大学・綾部先生)

J2のチームのデータを解析されたご発表で、高強度走行距離に関して、試合経過に伴って、その出現回数が低下し、その1回当たりの距離が増加することを示されていたことが特に印象的でした。

ご発表のあとに、こうした現象が起る要因について、ご意見を伺ったのですが、いわゆる筋の疲労というよりも、走る意欲や判断力など、認知機能の低下の方がより影響しているのではないかとおっしゃられていました。

ご発表を拝聴して、私もそのような気がしていたので、やっぱりそうかもなと思いました。今後の研究や指導の着眼点として面白そうだなと思っています。

「ランキング下位チームがランキング上位チームに勝利する条件に関する一考察(FIFAワールドカップ2022におけるトラッキングデータから)」(JFAフィジカルフィットネスプロジェクト・中村先生)

FIFAワールドカップ2022において、ランキング下位チームがランキング上位チームに勝利する条件として、相手チーム(格上チーム)より、高速度域での走行距離がより多かったことをご指摘されており、高強度でのランニングパフォーマンスの重要性を改めて認識できました。

この口頭発表セッションの後に、男子サッカー日本代表フィジカルコーチ・松本先生のランチョンセミナーがあったのですが、その中で、FIFAワールドカップ2022の決勝戦の移動距離のデータが紹介されており、ここでは、勝利したアルゼンチンと比較して、フランスの方が、高強度走行距離は多かったとのことでした。

ただ、試合映像と合わせて考えると、アルゼンチンは、フランスの攻撃のスピードが上がる前に、タックルに入るなど体を張って攻撃を遅らせていた印象があり、結果的に高強度ランニングをしなくて済むように対処していたのではないかとの分析をしておられました。確かに、そのような視点も非常に重要だなと改めて勉強になりました。

2日間で、サッカーのトレーニングについて、改めて考える機会になったので、今後の指導や研究に生かしていきたいと思っています。

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